【家族の介護体験談】ケアプランの難しさと思いに寄り添う重要性

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【家族の介護体験談】ケアプランの難しさと思いに寄り添う重要性

家族の介護は、いつどんなきっかけで始まるかわからないものです。 

まだまだ先のことと思っていても、ある日突然始まることも少なくありません。 

今回は、骨折を機に介護認定となった方のご家族に、介護の始まりやケアプランの作り方についてお聞きしました。 

思わぬ入院や介護の始まりを体験したことで感じたこと、さらにお金にまつわるポイントを伺います。 

プライバシーに配慮し、一部内容は修正していますのであらかじめご了承ください。またインタビューの内容には具体的な金額や利用したサービスもありますが、個々の状況によって異なります。あくまでも一つの体験談としてお読みください。

家族の介護はいつ始まるかわからない


―ご家族の介護について教えてくださるのは、田中さん(仮名/京都府在中/30代女性)です。今回はおじいさまが介護状態になられたきっかけなどについて、教えていただきます。

田中さん(以下「」はすべて田中さん) 

「私自身は祖父と離れて暮らしており、父が祖父の隣に住んでいます。母方の祖父なので、父から見ると義理の父親になりますね。 

母が他界しているため、祖父の介護が必要となったときに孫の私も参加することになりました。今は共働きの夫婦が増えたので、孫が祖父母の介護を担うことはそれほど珍しくないみたいです。」 


―それでは介護が始まったきっかけについて教えてください。 

「いつもと同じように食材の買い出しに行ったとき、転倒したはずみで腰を骨折してしまい、緊急手術をしたのがきっかけです。90歳を過ぎての全身麻酔やリハビリなど、大変な状況でありながらも幸い2か月半で退院できました。それでも完全に元の生活に戻ることはできず、介護(要支援2)の認定を受けたのです。」  

 

―では医療費もたくさんかかってしまいましたね。 

「そうですね。本当に突然の入院だったので、何の準備もできませんでした。加えてコロナ禍だったこともあり、差し入れなどは基本的にできません。必要なものは、急きょ祖父が購入してしのいだんです。 

ただし医療費自体には公的な助成(高額療養費制度)があるため、大きな負担にはなりませんでした。祖父は一般の所得区分なので、限度額適用認定証は不要です。保険証の提示だけで、限度額(57,600円/月)までの請求で止まります*1。 

個室が空いていなかったので大部屋になり、差額ベッド代もかかりませんでした。とは言っても、実は祖父は個室を希望していました。空きがあれば2か月半の差額ベッド代が加わっていたため、結構な負担になっていたと思います。」 

*1 同じ月に違う病院で医療費を支払っていた場合、高額療養費として後日返還される可能性があります。

ケガをきっかけとした介護の場合、入院中に介護の申請ができる

―入院の間に介護認定の申請をされたのですか? 

「そうです。医師からは、退院後の生活を早めに考えるように言われました。具体的には手すりやスロープの取り付け、お風呂の改修などです。隣に父が住んでいるとはいえ、基本的には1人暮らしです。父も仕事があるのでつきっきりになることはできません。家の中の事故を防ぐためにも、介護保険を使って家の改修をする方がいいと教えてもらったので、入院中に介護の申請をしました。」 


―介護の申請は難しかったですか?

「自治体によって違いがあるのかもしれませんが、担当の窓口にいけば親身に相談に乗ってもらえました。こちらにとっては初めてのことばかりですが、役所の担当者は介護のプロです。さまざまなケースを処理されているので、我が家の場合についてもなんでも答えてくれました。 

インターネットで調べても、(家庭によって違うため)よくわからないことが多いですよね。骨折直後や入院中は認定調査にいけないケースもあるそうなので、担当の医師や自治体の介護担当の方に聞くのが一番だと思います。 

ただ、医師の意見書をもらったり役所に相談に行ったりと、申請自体には日数がかかります。私は遠方なのでほとんど父がしてくれましたが、仕事との両立や遠距離などの面がネックになりそうです。ケアマネージャーさんが手続きを代行してくれることもあるそうですね。」 

介護の始まりはケアプランの作成

―退院後、すぐに介護サービスを受けられたのですか? 

「住宅改修は入院中に済ませておき、介護保険で後から9割分給付してもらえました*2*3。ただしその後の生活でどのように介護保険を使うかは、ケアマネージャーさんと一緒にケアプラン(要支援者の場合は介護予防ケアプランといいます)を作成しないといけません。これがとても大変でした。」 

*2 所得区分によっては7割~8割給付(自己負担が2割~3割)の場合もあります。

*3 要介護(要支援)認定申請前に利用したサービスは、原則として保険給付の対象となりません。やむを得ない事情があると判断されたときに、後から支給されることがあります。


―ケアプランの作成が難しいのでしょうか? 

「そうですね。何も考えなくていいなら、体の状態に合わせて必要な介護サービスを1週間分組んでいきます。ケアマネさんはプロなので、限度額の中で介護サービスを組み立ててくれますし、それによって1か月のケアプランが決まります。でも実際にはそんなにスムーズにはいかないんです。」 

 

―いろいろな予定を合わせるのが難しいからでしょうか。 

「それもあります。私も父も、できれば平日は毎日1回、誰かに家の中に入ってほしかったんです。祖父は要支援2の判定だったので、支給限度額は約11万円(自己負担は約1万円)。この範囲内だと、週2回ホームヘルパーさん(訪問介護員)、週1回訪問看護に来てもらうことができます。残りの週2回は、以前からお世話になっているシルバー人材センターの方に来てもらおうとしました。ちなみにシルバー人材センターに支払う費用は、公的介護保険の対象外。すべて実費となります。 

しかしそれだけの方に関わってもらおうとすると、予定がまったく合わないのです。しかもヘルパーさんにお願いする内容によっては、祖父が拒否してしまいます。たとえば家の中の掃除や食材の買い出しなどは、勝手を知っているシルバーさんにしてほしいという強い希望がある様子でした。 

祖父が自分でできること、ヘルパーさんにしてもらう内容、来てもらう日にちなどをパズルのように組み立てる作業は、1日で終わりませんでした。 

また祖父は体が多少不自由でも、気力は入院前から変わりません。周囲の人が介護プランを決めていくことに、少なからず不満があったのです。食事へのこだわりが強く、週1回はこのお店のランチ(持ち帰り)を食べたい、などの希望も出てきました。」 

 

―なるほど。体は介護状態になっても心は元気。それだとプライドが許さないこともありますよね。どのように折り合いをつけたのですか? 

「介護をする側の父や私には自分の生活があるため、祖父の希望を100%かなえることはできません。ランチの希望を聞いたとき、「それはちょっと贅沢だ」とつい言ってしまいました。 

しかし祖父の言葉を聞いて、すぐに後悔したのです。 

『もうすぐ95歳なのだから、自分はいつ寿命を迎えるかわからない。外出もできない状態で、食の楽しみまで奪われたくない。好きなものを食べて残りの人生を過ごしたい。』 

こう言われたとき、自分が育児中に引きこもっていた日々を思い出しました。産まれたての子供を連れてどこにも行けず、食べたいものが食べられないつらさを自分も味わっていたのです。育児には終わりがありますが、介護はずっと続きます。そんな状態で、数少ない楽しみを奪う権利は自分にはないと感じました。 

もちろん、自分の生活があるので希望を全部叶えるのは現実的でありません。しかし、少なくとも紙の上でパズルのようにやりくりしたケアプランには、祖父への尊厳がまったく感じられなかったのです。」 


 頼めるサービス(原則1割負担)頼めないサービス
サービス例
  • 日常生活を送る上で必要な家事サポート(炊事、洗濯、買い出し、掃除など)
  • 入浴や排せつ、着替えなどの介助(自立支援のための見守りを含む)
  • 訪問看護による医療的ケア
  • 冠婚葬祭や外食、趣味趣向にかかわるもの
  • 部屋の模様替えや大掃除など、日常生活の援助に該当しないもの
概要 基本的に時間単価制。要介護度によって限度額があるため、ケアプランによって利用時間を決定する 全額自己負担ですが、以下のような有料サービスもあります
  • 一般企業による、介護を伴わない生活支援サービス(家事代行サービス、食材配達サービス、洗濯代行など)
  • シルバー人材センターによる家事サポート


 ケアプランは介護される側のQOLを置き去りにしない

 ―介護をされる方のQOL (自分らしく充実した生活を送れているかの評価)は、近年重視されていますね。今まで元気に過ごして来られたのなら、なおさらこだわりが強いのかもしれません。 

「まさに祖父のQOLを軽視していました。反省して、もう一度組み立てることにしたのです。祖父も頑固でなかなか折れてはくれませんでしたが、毎日誰かに来てもらうことは承諾してくれました。ランチ(持ち帰り)についても、通販や家事代行の力を借りて何とか希望を叶える方針です。 

余談ですが、祖父はひ孫の写真をクラウドで管理するなど、新しいものに抵抗がないんです。だからこそ、昔ながらの方法にはこだわらず、通販などの利用を承諾してくれました。60代の父の方が渋ったほどです。介護の負担を減らせるツールが出てきても、本人が受け入れられないと意味がないですよね。祖父を見習って、自分も介護を受けるときに備え、常に時代の進化についていかなきゃと思えました。」 


介護にはお金がかかる。これは避けられない事実 

―それでは無事に、予算内にケアプランを立てられたのでしょうか。 

「介護保険の限度額内でケアプランは作成できました。ただし介護自体が予算内かどうかと言われると、どうでしょうか…。実費のシルバーさんや家事代行にもお願いするので、介護保険以外の出費がかさみます。とはいえ、祖父には自分ひとりの介護費用をまかなえる分の蓄えがありました。なので父や私が援助する必要はなく、祖父の希望を叶えることができたと言えます。 

もしも祖父に蓄えがなく、金銭的な援助をするとなっていれば…先ほどのランチの件についても、違う結論になっていたかもしれません。基本的に介護ヘルパーさんは買い出しもしてくれますが、希望のお店は時間内に往復できる距離じゃなかったんです。そこで、民間の家事代行サービスを利用することにしました。入会金や年会費、それに時間単価と交通費がかかるので、自分で買いに行くより何倍も費用がかかります。それでも祖父は希望したため、利用することにしました。 

いつまで続くかわからない介護生活。もし金銭的な援助をすることになれば、別の妥協案を考えたかもしれません。 

もちろん大切な家族のためにできることは何でもするつもりですが、きれいごとだけで済ませられないのがお金の面です。介護にはお金がかかるということを、実感してしまいました。 

希望にあう介護を受けるために、選択肢は多い方がいいに決まっています。お金があればそれだけ多くの選択肢から選べるとわかったので、父の介護や自分の介護もきちんと考えようと思えました。」 


 介護を考えたとき、大切になる3つのポイント

 ―なるほど。介護保険の支給限度額内でケアプランを作成できる一方で、QOLを考慮すればもっと費用がかかるかもしれないということですね。私たち世代が自分の介護を見据えるなら、やはり大切なのは金銭的な備えということでしょうか。 

「そうですね。今回の介護を通して重要だと実感したのは、お金、情報、そして新しいことへの順応力という3つです。 

前提としてお金は必要不可欠です。まだ祖父の年代では年金でやりくりできる方が多いのかもしれませんが、これから年金額は下がる可能性が高いですよね。希望する介護を考えたときに、ある程度の貯蓄がないと子供や孫世代にまで迷惑をかけてしまいます。 

そして情報も大事ですね。情報を拾う力と言ったほうがいいかもしれません。公的な介護保険や制度、施設の情報など、介護にまつわる知識はたくさん仕入れるべきです。とくに家族で介護をするには限界となるケースを想定し、頼りになるサービスは知って損がありません。 

今回の場合だと、家事代行サービスがそうでした。私の兄弟の会社に、福利厚生で使えるところがあったんです。祖父が加入している生命保険の付帯サービスにも、家事代行の優待サービスがついていました。これらを利用すれば多少費用を抑えられます。 

ほかにも、たとえば民間の介護保険なども知っておいて損がありません。自分で自分の介護費用を貯めるとき、貯蓄以外にも保険があると知るだけで選択肢は増えますよね。老後資金だけでなくローンの返済や子供の教育費なども考えないといけないので、保険と貯金でバランスよく備えたいです。 

情報を知らなければ、費用負担が増えたり備えられないリスクが出たりします。いかにたくさんの情報を手に入れるかが重要だと、痛感しました。 

最後に新しいことへの順応力。どれだけ介護の負担を軽くするツールがでてきても、それを使えなければ意味がありません。突然受け入れられるものではないので、時代の変化には常についていきたいですね。価値観もどんどん多様化しています。自分の知識や価値観は、もっともっとアップデートしていかないといけないと思います。それが将来、自分のQOLを保つことに役立つと思うんです。 

お金、情報を拾う力、順応力。この3つが大事だとわかりました。」 


まとめ

実際に介護を体験した方にお話を聞くことで、少し介護を身近に感じていただけたと思います。 

介護をされる本人や家族、ケアマネージャーなどがチームとなり、介護の方向性を決めるのがケアプラン。限度額内で無機質に組み立てるのではなく、QOLの観点を忘れないことが大切だとわかりました。そのためには、今回のお話にもあったようにお金の準備や情報収集などがポイントとなりそうです。 

ニッセンライフでは民間の介護保険も取り扱っています。介護保険について気になる方には無料で資料をお送りしますので、ぜひお気軽にご利用ください。 







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